プロジェクトチームでは最年少。
工場で、黙々と部品の組み立てに勤しむ一人の女性がいました。
どちらかと言えば内向的で、大勢の前で発言することは、
彼女にとって大きな挑戦でした。
これは、そんな彼女が自らの殻を破り、
やがて自信に満ちた発言で周囲を動かすまでに成長した物語です。
彼女が籍を置くのは、長年にわたり部品製造を手掛けてきたメーカーです。
しかし、時代の変化とともに
「自社の名を冠した製品を世に送り出したい」という熱意が社内で高まり、
「自社商品開発プロジェクト」が発足しました。
プロジェクトのメンバーは、全社員を対象に公募で選出されました。
「こんな商品を通じて社会に貢献したい」
「未知の領域に挑戦し、自己成長を遂げたい」。
提出された作文には、各々の夢や、変革への真摯な想いが綴られていました。
物語の主役であるAさんもまた、内に秘めた情熱を作文に託し、
このプロジェクトに名乗りを上げた一人。
そして彼女は、厳正な選考を経て、
7名のメンバーの一員として迎えられました。
20代後半から40代前半という、
多様なバックグラウンドを持つ男女が集い、
プロジェクトは、メンバーそれぞれの期待感を胸にスタートを切りました。
商品コンセプトの策定、
ターゲットユーザーのインサイトを探るディスカッション、
実地でのリサーチインタビュー、
デザインの方向性を定める意見交換。
プロジェクトの進行に伴い、
メンバーが自らの考えを発信する機会は、
必然的に増えていきました。
しかし、プロジェクト初期のAさんは、
ディスカッションの中で発言することが難しかったのです。
こちらから意見を求めても、言葉を選びあぐね、
戸惑いを見せることが少なくありませんでした。
普段は生産現場で黙々と作業をしている日々からは
人前で自身の考えを明確に伝えることに、
まだ慣れてていなかったのでしょう。
彼女の内には、磨けば光るであろう
多くのアイデアが眠っているにも関わらず。
そんなAさんに対し、
私たちは彼女の潜在能力を引き出すアプローチを試みました。
「メンバーひとりひとりの個性を活かし活躍の場をつくる」
というメッセージを、行動を通じて伝えたかったのです。
私たちがプロジェクト運営において重視するのは、
各メンバーの「個性」を最大限に尊重し、
誰もが自分らしさを発揮しながら
主体的に貢献できる環境を醸成することです。
そのために私たちが実践しているのは、
「認める」「見つける」「伸ばす」という、
個の力を伸ばすための3つのステップです。
Aさんが、どんな些細なことでも意見を発した時に、
「それはいいな指摘ですね!」「興味深い視点です!」と、
その発言の価値を認め、真摯な関心を寄せました。
それは、根気強い働きかけを続けることでもありました。
やがて、Aさんの表情に微かな変化が見受けられるようになりました。
以前は伏し目がちだった瞳が、だんだんと輝き始めたのです。
そして、プロジェクトが進むにつれて、
いつものように、メンバー全員に
「何かご意見、ご質問はありますか?」と促したところ、
真っ先に手を挙げ、明確な口調で発言したのは、Aさんでした。
その姿には、以前の彼女からは想像もつかないほどの
自信と落ち着きが満ちていました。
その頃には、プロジェクト最年少であったAさんが、
ディスカッションにおいて誰よりも積極的に論点を提示し、
時には議論をリードするまでに成長していました。
新規事業開発は、単に新しい製品やサービスを創造する行為に留まりません。
そのプロセスに関わる一人ひとりの個性が尊重され、
それぞれが「自分自身の強みを活かして貢献できる」と
実感できる組織文化を育むこと。
私たち未来公園が最も大切にしているフィロソフィーです。
Aさんのように、内なる可能性が開花したときは、
私たちも、やってて良かったと思える瞬間でした。